季節の瞬間
毎日、夜明け前に歩いています。
今回の展示は、季節との対話の記録です。
季節は刻一刻と変化し、止まリません。
過去の再現はできませんし、この先を目にすることも。あるのは今、その瞬間です。
わたしの求めるものは季節の風(ふり)です。
景色は何処で、この人は誰で、これは何かは、経験、知識、常識、見識を言葉を介して認識しています。しかし、風は、言葉がないところにいます。
いつも、歩き始めは、いろいろな言葉が頭の中をかけまわります。昨日の出来事、今日の予定、悩み、楽しみ、悲しみなど。見る景色も、言葉を介して見ています。
しかし、歩いて30分が経ち、うっすらと明るくなり始める頃から、言葉が頭から消え、風が見えてきます。
その瞬間(風)が私のシャッターを押すのです。
ずっと四季の風と出会ってきました。
季節は、四季の螺旋階段です。四季の螺旋階段は同じ所には戻りません。時の流れの中での風はいつも新しいのです。わたしは季節の螺旋階段で、今が発する風と対してきました。
夜明け前の世界は影をもたず、天と地はひとつとなり、季節の風が優しく吹きます。
春の湿った風は温もりを与えます。
夏の暑い凪は恵みを与えます。
秋の爽やかな風は絵筆となります。
冬の冷たい風は色と香りを奪います。
ある日のこと。
未明の闇は深縹(こきはなだ)です。深縹に包まれた森は木々の緑を微かに混ぜて夢幻となり、わたしを森の奥へと暗黒のグラデーションで誘っています。
地平線に微かな朝のひかりが近づくと、闇は濃藍(こあい)に変わり。周囲の色と融けあい、沈黙の色で私を受け入れてくれます。
さらに闇は藍(あい)となり、地平線の空は、朝を伝えるオレンジ色と溶け、緑色に…。闇のひかりが降りそそぎ、地上は一瞬、輝きます。
そして、地平線のオレンジ色の明るさが増し、闇は朝に飲み込まれていきます。
夜明けが訪れ、わたしの季節との対話は終わります。